『鞄を持った女』(1962)ー イタリア映画に現れたトランクというオブジェ

 映画は、列車と並んでスポーツカーが疾駆するシーンから始まる。戦後イタリアの「経済の奇蹟」と呼ばれる好景気を背景としたひとりの女の物語である。映画の原題は、<<La ragazza con la valigia>>。「valigia」は、「鞄」と訳されている。小学館の伊和中辞典によれば「スーツケース、旅行かばん」とあるが、映画の中のバッグの形状から「トランク」という訳のほうが筆者にとってはしっくり来る。

 このトランクは、産業革命以降に移動手段が馬車から鉄道と自動車に取って代わっていくが、その過程で馬具工房を営んでいたメゾンが馬具からトランクの製造へと転換していった。映画の最初のシーンは、それを象徴している。'50年代から'60年代にかけての経済成長を背景にしながら、翻弄される女のトランクを大映しにして物語が始まる。

 スポーツカーの良家のデカダンな男は、女をトランクと一緒に置き去りにする。彼女はパルマの邸宅まで男を訪ねていくが、男は出て来ない。出て来たのは、弟の方である。やがて彼女は、弟と恋に落ちていく。しかし、別れはやって来る。浜辺で接吻をして、弟はパルマ行きの列車に乗って帰っていく。

 トランクは、時代に翻弄される女の人生における恋や裏切りといった様々な記憶がいっぱいに詰まったオブジェである。しかし、当店では未来に希望が詰め込めるオブジェとしてのバッグをイタリアのアルティザンとのコラボレーションによってそのデザインを創造してまいりたいと思っております。

2019年12月20日

SHARE